とある海辺にて

誤用の方が浸透してしまっている言葉ってありますよね。
”潮時”なんていうのもその一つで、運動選手が引退を表明する時や、芝居で出てくる盗賊が「もう、潮時だな」と呟いて足を洗おうとしたりなど、引き際、何かを終わらせようとするときに使われがちです。
実際は何かをするのに丁度よいタイミングを指す、ポジティブな言葉なのですが。
そんな潮時の正しい意味が、間違えようのない場面で使われている所に遭遇しました。

房総半島を東京湾沿いにサイクリングしていた時のこと。
木更津の港にて、10階建てのビルぐらい高さがあろうかという橋を渡って
港の中央に浮かぶ小島へと行き交う人々の姿が目に映りました。

あまりに多くの人たちなので、あの島はなんなのだろうと橋の近くに寄ってみると、
島から戻ってくる人の手には、蛤のびっしり詰まったビクが下げられていました。どうやら島には潮干狩りの会場があって賑わっているようです。 島へ行く人より引き上げてくる人の数が多いようなので、閉場の時間が近いのだろうかと辺りを見渡していると、橋の傍らの看板にこう書かれていました。
「潮時: 11時開始  14時終了」と。

言葉の元の意味をたどると当たり前の事なのですが、潮干狩りの絶好のタイミングである潮時は、潮が引いてから満ち始める時までだったと。たしかに当たり前の事だけれども、言葉の由来そのまま使われていたことに、なんだか目から鱗が落ちる思いがありました。

ともあれ、言葉は時代と共に変化していくものだそうなので、誤用の方にとやかく言うつもりはありません。ただ、海沿いで生活する方や釣り好きの人は潮時の本来の意味をこれからも使っていくのだろうなあと思いました。

シン

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