祇園精舎の鐘の声

コラムタイトルから離れるようだが、
皆さんは今まで観た映画でお気に入りの一本を挙げろと言われたら、何を挙げますか?
感動したり、楽しかったり、深く考えさせられたり。
私は私自身の事情によって、一時期ツタヤの旧作を全て観てしまったかというくらい映画に時間を費やしました。

ある時、私を可愛がってくれていた上司とはしご酒をした帰りに「若い頃に観た映画」の話になり、今まで観た映画の中でひとつだけ挙げるとしたらという話になりました。
お互いのアイデンティティーは何となく分かってはいましたが、私は躊躇いながらも正直にフランシス・フォード・コッポラの「ゴッドファーザー」と口にしました。ただし、パートⅠからパートⅢまで全部です。と断りを入れて。
すると上司は嬉しそうに「おーおー」と言いながら、俺もそうなんだと。
本当に好きで、学生時代に学園祭で台本を書いて演劇部の仲間と演じたことがあると。

上司は防衛大学校を出て原子力関係へ進み、博士号を取得して暫く、親の後を継いでIT企業の経営者になった人です。つまり社長と社員の関係でした。
その方は刃物で言えば力強い山刀のような人で、べらんめえ口調はとても社長とは思えないような私の好みでした。
たかが映画でもその方と好みが一致した事を内心嬉しく思ったのを憶えています。
映画としては所詮イタリアマフィアの物語なので物騒な表現も有るのですが、映画として初めから終わりまで本当に大好きでリスペクトしています。

それでその方に映画の中で一番の場面を挙げるとすればと、生意気な私は聞きました。
しばし黙考して、シチリアの片田舎で「アルパチーノ」が朽ち果てる場面だと言いました。
※アルパチーノの役名はマイケルですが。
その時、まるで祇園精舎の鐘の声が聞こえるようだったと。
私はその方に、信じてもらえないかも知れませんが実は私もその場面で祇園精舎の鐘の声が聞こえるような気がしておりました。と告げ、ただし盛者必衰の理などクソ喰らえで、ひと組の親子がただひたすらに生きた。その生き様を認める鐘の音に思えたと。
映画には鐘の音はありません。

久々に先日第95回アカデミー賞で7部門を獲った、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のミシェル・ヨーの円熟でも観て来ようかな。

ゆう

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